こんにちは、モモです。(@sanshibu)
今回はパタゴニア ダムネーション上映会に参加してきました。
2024年6月27日、まつもと市民芸術館での内容となっています。
さっそく詳しくお話していきます。
ダムネーションとは
ダムネーションとは、英語で「畜生!」といった罵りや非難を表す言葉になっています。
ダムに対するストレートな思いが伝わってきます。
映画自体は2014年制作のため、10年以上の年月が経っているわけですが、依然として多くの砂防堰堤やダム新設を抱える日本に対する問題提起として相応しい内容だと感じました。
一番印象に残ったのは、出演者による「川の歴史や伝統、そこに住まう人々の生活と向き合わなければならない。」といった内容の発言です。
私は、渓の開拓の際には必ずその土地の「村史」を開き、どのような歴史があり住民からどんな扱いを受けてきた場所なのか、自分の中に落とし込んでいくのが最低限の礼儀作法だと考えています。
常日頃から様々な土地の山岳渓流を探索する私にとっては、とても共感できる内容でした。
ゲストによる対談
上映会の後は75分程、吉田 丈人氏、田口 康夫氏、藤原 繁幸氏による対談の時間がありました。
専門家、市民、企業といった異なる立場の意見交換の場であり、興味深い内容でした。
長野県における事例も取り上げられていました。
グリーンインフラ
吉田氏からは、スライドを用いてグリーンインフラ活用の講義がありました。
グリーンインフラとは、自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活かすという考え方で、米国が発祥となっています。
霞堤という事例が取り上げられました。
霞堤は堤防の区間に開口部を設け、堤内地へ延長させることで、二重に存在する不連続な堤防の形をとっています。
洪水時には、水が堤内地へ流出することで氾濫を防ぐことが可能です。
堤内地の水は、自然と河川へ戻っていきます。
また、生物が生息域を拡大していくことも容易となるため、土地がより豊かになる狙いもあります。
日本では昔から用いられている手法であり、昨今の異常気象の中では特に重要性が増していると言えます。
スリット砂防堰堤
地元で渓流保護ネットワークを統括している田口氏からは、スリット砂防堰堤がもたらす利点に関して言及がありました。
通常の砂防堰堤では土砂の流出が限られてしまうため、海まで必要な量が確保できず川床の平坦化が避けられません。
また、砂防堰堤内に土砂が満ちると掻き出す手段がないため、本来の機能を失った役に立たない建造物と化します。
写真のように切れ込みが入ることで、急激な土砂の流出は避けられ、緩やかに拡散していくことが期待できます。
この場合は、イワナの遡上も妨げられません。
従来の砂防堰堤とは違い、河川の機能を著しく低下させる恐れは最小限度となり、イワナを始めとする生物の分布を妨げる心配もないため、まさに理想的な堰堤と言えます。
さらに新規のスリット砂防堰堤を作るより、既存の砂防堰堤をスリット化させた方が費用も安く抑えられることが判明しているため、費用対効果の面からも優れています。
砂防堰堤の多い長野県では、無視できない話題です。
造園
田口氏からの依頼で既存の砂防堰堤を取り崩し、造園技術を駆使して治水工事を行った信州グリーンの代表が藤原氏です。
市内を流れる牛伏川の事例を取り上げました。
上流からの水圧に耐えうる石の配置を考案し庭園技術を導入することで、川の景観を維持したまま治水機能を果たすことを実現しました。
藤原氏は「施工後20年経過し、久しぶりに様子を見に行ったが、自分たちの仕事がよりよい河川環境の変化へ寄与できたことをとても嬉しく感じた。」ともおっしゃっていました。
しかし、それ以降同様の施工の発注はなく、県からの依頼も皆無であることを言及されています。
モデルケースとして充分なため、他に波及してほしいものですが……。
牛伏川をめぐる田口氏と藤原氏の話は、パタゴニア公式サイトにも記事として載っているため、興味のある方は是非ご覧ください。
質問内容
対談の後は、質問の機会が与えられていたので覚えている範囲で列挙しておきます。
小水力発電の利用
👤「砂防堰堤の小水力発電としての利用はどうか。」
小水力発電とは、ダムと異なり流れる水を直接取水し発生するエネルギーを元に電力を得るというものです。
ゲストからの回答は……。
「可能な利用方法。だが、整備が進んでいないのが実情で導入には周辺地域の理解が必要。また、初期費用を回収するまでに数十年と長い期間を要してしまうため、県も意欲的ではない。」
とのことでした。
費用対効果の面を無視した政策はできませんからね。
ダムの危険性を世間に伝えたい
👤「ダム関連の職務につき数十年たつが、本当にダムは危険。どうしたら世間にもっと認知してもらえるか。」
ゲストからの回答は……。
「行政や従事者側が地域住民に説明の機会を持つことが重要。実際そのような事例はいくつもあり、満足度の高い声がある。」
「しかし、報道機関の中には事実を歪曲した形で伝える場合もあり、良いものを悪いものへと悪いものを良いものへとしてしまう。」
「実際のデータを元に、事実を地域住民へ伝えることのできる機会を今より多く開かれることが何よりも必要。」
とのことでした。
多くの人の目に触れる機会がないと、良いものも悪いものも判断がされにくいですからね。
地域住民の声
👤「実際に砂防堰堤の小水力発電利用を導入された地域住民であるが、説明機会を与えられてもまともな回答を得られなかった。」
ゲストからの回答は……。
「説明側の中には、既に決まったことだからと傲慢な態度で住民をないがしろにした説明しかしない場合もあるのが事実。」
「そのような場合には、事実に基づく正確なデータの開示を要求することが何よりも必要。」
「地域住民だけでは難しいようなら、他団体の介入を要請して多くの目の元に晒すことも手段の1つ。」
とのことでした。
説明側も、本当に住民に理解してほしいと歩み寄る姿勢が必要です。
我々にできることは
多くの砂防堰堤を抱える日本の中で、我々山釣り師ができることは何でしょうか。
一般人と異なり山奥へ入る我々は、あまりにも多い砂防堰堤の数々を見ています。
既に機能を失ったもの、必要性を感じない沢に分不相応な量の堰堤、下流域へ土砂が還元されないことで生じる川底の平坦化など枚挙に暇がありません。
一般人が知りえない事実を知る者、それが山釣り師です。
この事実を家族や友人など周囲の人々に伝えることから始めるのはどうでしょう。
「見える」化することで、より多くの知見が得られることは間違いなく、多くの人の目に晒される機会が必要です。
何事も、最初の一歩を踏み出さない者に次はありません。
既に多くの団体がその一歩を踏み出しています。
実情を把握するために、問題提起や啓蒙活動を行っている団体から話を聞いてみるのはいかがでしょうか。
山をただ浪費する側から、保全する側になることが山釣り師には必要だと感じました。
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